Sunday, May 23, 2010

金曜日の米国市場の上昇の背景は何もなし

5月24日のアジア各国の株式市場は現在のところ若干の例外(日経平均)を除いて大幅な値上がり。先週金曜日の米国市場(特にダウ工業平均)の上昇を好感して、というのが大方の解説ですが、ちょっとこのチャートをご覧ください。金曜日のダウ平均のIntradayチャートです。


これを見て「好感」がもてる方は、たいしたものです。自然界には通常はこのようなパターンは存在しません。存在するときは、システムがクリティカルなポイントに達しつつある直前です。(カオス理論、最近ではブラック・スワン理論ですね。)

(そういえば、ブラックスワン理論のNassim Taleb氏がアドバイザーを務めるヘッジファンドが5月6日の株式急降下の引き金になったかもしれない、という話、ご存知?英語版のブログにポストを書きました。)

最後の15分の急上昇の背景は、何もありません。格別のニュースも無し、噂も無し。いわば、5月6日の株式市場急降下(アメリカでは最近、『フラッシュ・クラッシュ(Flash Crash)』と呼ばれています)の逆、つまり、Op-Exデーなのにもう一つ冴えない市場に厭きたどこかのファンドがインデックス・オプションか、ミニ先物か、インデックスETFか、インデックスETFのオプションに大量の買いをいれ、それを嗅ぎ付けた他社のコンピュータのアルゴリズム(アルゴ・ボットと呼び習わしています。ボットとはロボットのこと。)が我先に押し寄せて買いに走り、その結果わずか15分足らずで130ポイントの急上昇となったのでは、というのが私の個人的感想です。似たようなことはこの1年の間にほとんど毎日のように起こっていました。

にもかかわらず、金曜日の取引高はOp-Exにしてはぱっとしない取引高でした。木曜日の取引高より高かったのは3主要平均の内ではS&P500だけ。

フラッシュ・クラッシュの逆だから、まあ、フラッシュ・メルトアップ(Meltup)といったところでしょうか。実体はまるでないのです。先物市場が毎晩低い取引高で突然高値を付けているのと同じことです。

5月6日のフラッシュ・クラッシュを目の当たりに実体験したことと、5月7日の、EUの1兆ドルに及ぶユーロ圏およびユーロ救済(Bailout)ファンドの設立のニュース、この二つの出来事以来、どうも『幽霊の正体見たり』といった感じで、特に株式のTechnical Analysisをやっていてもばかばかしくなることが暫しです。

ただ、アルゴ・ボットのプログラムがそれこそニューロ・ファジイである可能性もあるわけで、人間のトレーダーの思考方法を真似しているのかも知れず、だとするとTAのキーポイント(特にFibonacci Retracementなど)はアルゴ・ボットも注目している可能性が大な訳で、その意味ではまるっきり無駄ではないのかもしれません。ただ、先週の金曜日のような市場の動きは、経済、金融、政治など背景のファンダメンタルとはまったく無関係だということを、頭のどこかに留めておいてください。

ちなみに、金曜日の最後の15分間のメルトアップの真っ最中に手持ちの株を売ろうとしたけれどブローカーのシステムがまたもダウンしていて、オーダーはまったく通らなかった、とのエピソードがヤフーのメッセージボードに載っていました。まったく、馬鹿を見るのはいつも一般投資家ばかり。

Saturday, May 8, 2010

5月6日米国株式市場混乱の追加情報:High Frequency Trading、Dark Pools

5月8日付けのウォール・ストリート・ジャーナルの記事は、5月6日に米国株式市場が崩壊寸前に追い込まれた経緯を説明しようとしています。

株式市場のフリー・フォール(崩壊)が始まったのはニューヨーク時間の2時40分以降だが、その前、2時を過ぎたあたりから、外国為替市場で極端な動きが出始めていた。[特に、日本円・ドル。]

Procter&Gamble (PG)の大量の売り注文はトレードミスではない。この売り注文がきっかけで、市場指数は更に降下を始めたが、それはHigh Frequency Tradingを行う金融機関がトレードを停止した時間とほぼ一致している。

ダウ工業平均がマイナス500を記録した時点で、このような金融機関のひとつであるTradebot Systems Inc.はトレードを停止した。その他のHFT金融機関数社も同様にトレードを停止した。[Liquidityを供給するという、HFTの謳い文句は単なる謳い文句だったわけ。]

ニューヨーク証券取引所(NYSE)は市場の急激な降下が始まった時点で取引を停止あるいはスローダウンしたが、その結果、次々に入ってくる売り注文を[コンピュータではなく人間のトレーダーが」さばききれず、さばけなかったオーダーはその他のエレクトロニック市場にまわされた。(恐らく、Intermarket Sweep Order)

まわされた先の市場では、通常価格での買い注文はほとんどなく、株式の価格は急激に落下した。[まわされた先の市場は、ナスダックなどの大手公開市場だけはでなく、いわゆるダーク・プールと言われる市場-大手では、ゴールドマン・サックスが主体のDirect EdgeBATS Exchange (NYSE、ナスダックに次ぐ規模)などがあります-が含まれていた様子。]

PGに大量の売り注文を出したのは誰か、どこから注文が入ってきたのか、注文の大きさは?

ウォール・ストリート・ジャーナルの記事の答えは、『わからない』の一言。

また、市場のフリーフォールを止めたのは誰なのか?その点についての言及はまったくありません。

誰が利益を蒙ったのか? Qui Bono? それについての言及も、まったくありません。

ちなみに、金曜日の市場を見ていて面白かったのは、木曜日とは違って市場が下がるたびにどこからか、神経質にも思える買いが頻繁に入っていたことです。特定の銘柄ではなく、市場指数(ETF、指数オプション、先物)を買っていたのでしょう。私は株式スクリーンに200銘柄程度を入れているのですが、スクリーンが一斉に緑色(アメリカでは日本と逆で、上昇している株は緑、下降している株は赤)になるのです。何か、とても無理しているような、不思議な感覚でした。まるで、木曜日の崩壊直前の後、High Frequency Tradingを行う会社がどこからか厳重なお叱りを受け、アルゴリズムを変更して市場が下がるたびに必ず買いを入れるように、と指示されたかのような。

月曜日のアジア市場の開始前にはEUの金融危機対応プランが公表されるとのことですが、アメリカ市場はどう反応するか。2008年10月に米国議会がアメリカの金融危機対応プランを可決したその日から、市場の20パーセントを超す急落が始まりました。株式市場に投資されている皆様、くれぐれもご注意ください。

Thursday, May 6, 2010

米国株式市場の大混乱はHigh Frequency Tradingのなせる業

ゴールドマン・サックスで有名になったHigh Frequency Trading、覚えてます?

5月6日の米国株式市場は大変にスリリングな相場でした。ニューヨーク時間の2時42,3分ごろから、ダウ工業平均、ナスダック、S&P500等の主要指数が突然急降下を始めたのです。私はちょうど英語のブログを書きながら横目で株式チャートを見ていたのですが、それまではマイナス200ポイント程度だったダウ工業平均が数秒後に顔を上げたときにはマイナス400、あっという間に何の歯止めも掛からずに600、700、800と落ちていき、マイナス998.50を記録したのは2時46分。そこからまた急激に戻して結局はマイナス347で終わりました。

最初は、欧州の銀行が貸し出しを全面停止したらしい、という噂のせいだ、というニュースが流れました。そのあとしばらくして、どこかのトレーダーがオーダーの桁数を間違えた、という噂が流れ、そうしているうちにシティグループのトレーダーらしい、という噂になりました。

S&P500の先物契約の一種のS&P500 E-Mini Futuresを16Million(1600万)売るオーダーを出すつもりが16Billion(160億)のオーダーになってしまった、ということらしいですが、シティグループのE-Mini Futuresの今日の取引高は60億に過ぎないことが分かり、この160億のオーダーがどこから出たのか、今のところ不明です。シカゴ商品先物取引所(CME)を通じて出たオーダーらしい、ということだけは分かっていますが。

きっかけになったのはこの先物のオーダーかもしれませんが、市場を最大9パーセントも下げたのはどうも、去年一時話題になったもののマスメディアからすぐに消えてしまった、High Frequency Tradingが原因のようです。Quant Trading、Algo Tradingなどとも言われますが、要するに高速のコンピュータを証券取引所のサーバーのすぐ隣に設置し(設置料金は結構なものだと聞きます)、高度なアルゴリズムを使ったプログラムで一秒間に100、1000とも言われるトレードを出し、自社に有利なBid、Ask値を引き出すと共に市場にLiquidity、流動性を与える、というものです。

今日株式市場で起こったのは、Liquidityを付加するどころかそのまったく逆、Liquidityを吸い取る結果になりました。

どこから来たオーダーにせよ、S&P先物から更に派生したデリバティブを使って先物市場を急激に下げ、その結果通常の市場が下がらざるを得なくなる、それをかぎつけたアルゴリズムが我先に押し寄せて更に市場を下げる。ジャンボジェットで飛行中に乗客がいっせいに立ち上がって飛行機の最後部に押し寄せたらどうなるか(やらないでくださいよ)。

ゼロヘッジに詳しい記事が出ていますので、お読みください。ゼロヘッジのタイラー・ダーデンは、「(High Frequency Tradingで)株式市場がほとんど死にかけた日」と言っています。何の歯止めも無く、ただひたすら落ちていく様子は、2008年の9月、10月の市場下落の時にもそうそう見かけなかったと思います。ダウがマイナス1000を越える直前に、誰がどうやって止めたのか。

また、もうひとつ分からないのは、プログラムトレーディング(総取引高の7割以上を占めるといわれています)が今日のように機能不全に陥ったときに作動するはずのサブルーチンがまったく作動した形跡がないこと。まあ、最後には誰かがどうかして止めたのですが、下げている最中はとても止まるとは思えませんでした。

個人的には、まったくの妄想、パラノイアと言われるのを覚悟で、これは一種のCyber Terrorismだったのではないか、とも思っています。Algo Botsの誤動作防止のサブルーチンをオーバーライドしておいて、E-Mini Futuresに大量の売り注文を出す。先物と通常市場のArbitrageを出さないためには通常の市場を下げなくてはならない。いったん下げが始まると、High Frequency Tradingのアルゴリズムが一斉に作動して、一斉に同じ方向に向かって走り出す。サブルーチンがオーバーライドされているので、アルゴリズムは止まらない。まあ、私も正確に把握しているわけではありませんが、だいたいそんなところかなあと思っています。

前述のゼロヘッジの記事の最後の方に、市場が急激に下げている真っ最中にLimit Orderで買い注文を何度か出してみたファンド・マネージャーの意見が載っています。出すたびに、彼の注文より1セントだけ高い注文がほぼ同時に出、彼の注文はいっさい通らなかった、とのこと。この1セント高い注文はHigh Frequency Tradingで、実際のトレードが成立したのかどうか、多分しなかったのでしょう。そのようにして、Liquidityがほとんどゼロのまま、市場の指数はひたすら落ちていったのです。

しかも悪いことに、一般の投資家が利用するオンラインのブローカーはどこも、市場が下落している間中システムがダウンまたはスローダウンし、私も自分のアカウントにアクセスできませんでした。ダウがマイナス1000の直前で止まって引き返したのを見て買いを入れたかったのですが、まったくだめ。

さて明日はどうなることやら。