Wednesday, February 29, 2012

独シュピーゲル インタビュー: 福島原発の精神科医 「作業員は心に驚くほど深い傷を負っている」 (記事全訳)

『いま診ているのは40代前半の男性です。彼の家は福島第1に近い海岸沿いにありましたが、津波で破壊されました。その際に7歳の息子さんを亡くしていま す。かれは避難しなければならず、別の場所にアパートを借りようとしました。しかし、アパートの大家は彼に貸すのを拒否しました。彼が東電で働いているか らです。やっとアパートを見つけたとき、隣人たちが彼のアパートのドアに張り紙をしました。東電社員出て行け、と。』

ドイツのシュピーゲル誌の国際版(英語)に、福島第1原発で作業を続ける作業員の方々の心のケアをボランティアで行っている、防衛医科大学校精神科の重村淳氏のインタビューが載っています。

昨年3月11日の地震、津波で家、家族を失った人も多く、その上東電で働いている、という理由で差別にあっている方もおられる様子。重村氏は、それでも仕事を離れるように、という勧めはまずしない、それよりも、仲間と一緒に働くことで一体感を作り出す方が効果的、と言います。

肝心な情報は聞かれないと言わない東電本社の記者会見や東電のこれまでの事故、被害への対応のおかげで、東電、と聞くだけでののしる人、東電の社員の「苦労」が散見するような記事を「御用記事」にする人の気持ちも分かりますが、シュピーゲルの記事に見えているのは地震・津波・原子力災害の現地の被害者でもある東電社員、作業員の方々です。

記事からは、重村氏が東電社員だけを指しているのか、東電(福島第1原発)で働く、東電社員を含めた作業員全般を指しているのかは、やや不明です。単純作業の下請け作業員と区別しているので、東電社員と大手元請会社の社員で責任の重い位置で仕事をしている人々、という理解で訳してあります。

元の記事はこちらです→The Fukushima Psychiatrist: 'It's Amazing How Traumatized They Are' (Spiegel Online, 2/28/2012)

以下、記事全訳(私訳)。(後で姑息に表現を直すかもしれませんが、大筋は合っているはずです。)

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シュピーゲル・オンライン
2012年2月28日

福島原発の精神科医: 「作業員は心に驚くほど深い傷を負っている」

福島原発の大事故から既に一年近く過ぎようとしているが、重村淳は破壊された原発で働く作業員たちに心のケアを提供し続けている。シュピーゲル・オンラインのインタビューに応じた重村氏は、東電の社員が直面する大きな問題の数々を挙げ、多くの社員が仕事を辞めない選択をした理由を語る。

シュピーゲルオンライン: 昨年の5月から、あなたは福島原発で働く作業員に精神的なサポートを提供しています。どのような経緯でそのような仕事をやるようになったのですか?

重村: 実際、作業員の心のケアを私が担当している、というのはちょっと悲しいですね。しかし、東電はやることが沢山あって心のケアまでする余裕が無かったのです。震災の前はパートタイムの精神科医が福島第1と第2の作業員のケアをしていましたが、彼は南相馬なので通うには時間がかかりすぎるのです。警戒地域のことがありますから。福島第1と第2のヘルス・センターの看護士(婦)の方が何人か、私の出版物を読んで連絡してこられたのです。その後、東電に依頼されました。私はボランティアとして行っています。

シュ: 無料でやっているのですか?

重: 東電は払ってません。払ってもらいたいとも思いません。私の立場が悪くなりますから。利益追求の原子力業界にかかわりたくないのです。特に作業員の賃金が2割カットされた今ではなおさらです。それで、政府のプロジェクトという形にしたのです。東電は私の後釜をまだ見つけていません。放射線が心配でしょうし、イメージに傷が付くことも心配でしょう。だいたい、日本は精神科医の数が足りないのです。1995年の阪神大震災の後、精神的なサポートが大事であることを理解する人が増えました。しかし多くの人はまだ、精神科に通う人は頭がおかしいのだ、と思っている。今回の震災をきっかけに、更に理解が深まることを望んでいます。

シュ: 放射線のことは心配ではないのですか?

重: 怖くはありませんが、だからと言って不安に思っていないということではありません。私は福島第1には行ったことがありません。ヘルスセンターは福島第2にあり、第1からは10キロほど離れています。第2の放射線量は低いのですが、私の妻は私の今回の仕事をあまりよく思っていないようです。最初の頃は、「私を取るか、原発を取るか」と言っていました。それから何回か福島に行っていますので、妻もある程度は納得してくれたのではと思っています。

シュ: 事故以来、作業員の方々はどのようなことを経験してきたのでしょうか?

重: 5月[おそらく3月の間違い]に原子炉が爆発したとき、自分たちはこれで死ぬんだ、と彼らは思っていました。それでも、日本を救うために、作業を続けなければならなかった。作業員の多くは原発周辺地域から来ています。津波で家が流され、家族は避難を余儀なくされた。作業員たちは家を失い、家族は遠くに避難しており、東電で働いているから、という理由で、世間は彼らを責める。この災害を引き起こしたのは東電だ、と多くの人々は思っている。ヨーロッパとは違って、日本では彼らは英雄として捉えられてはいませんでした。あるとき、作業員のために新鮮な野菜を寄付してくれた人がいました。当時、東電は、警戒区域内で新鮮な食料を提供することが出来なかったのです。それでも、寄付は匿名で行われました。東電の作業員を助けている、と分かるのがいやだったからです。

シュ: 作業員の方々の現在の状況は?

重: 作業員たちは心に驚くほど深い傷を負っています。震災から2、3ヶ月経った時、福島第1と第2の東電作業員1800人を対象にアンケート調査を行いました。津波のような災害が地域を襲うと、一般の人の1パーセントから5パーセントが長期の精神的外傷(トラウマ)を負います。警察、消防など災害に対応する仕事の人たちでは、大体10パーセントから20パーセント。東電の作業員ではそれよりもずっと割合が高い。

シュ: そのような高いレベルの精神的外傷がもたらす影響は?

重: いま診ているのは40代前半の男性です。彼の家は福島第1に近い海岸沿いにありましたが、津波で破壊されました。その際に7歳の息子さんを亡くしています。かれは避難しなければならず、別の場所にアパートを借りようとしました。しかし、アパートの大家は彼に貸すのを拒否しました。彼が東電で働いているからです。やっとアパートを見つけたとき、隣人たちが彼のアパートのドアに張り紙をしました。東電社員出て行け、と。彼の放射線被曝量は非常に高かったため、別の部署に移らなくてはなりませんでした。今はデスクワークで、彼にとっては面白くない仕事だし専門とも違う。ガンにかかるのではないかと不安で、経済的にも苦しい。賃金がカットされ、家をなくしたからです。家族とも問題が起きている。母親は夫を津波で亡くし、自分を責めている。夫と孫を助けることが出来なかった、というのです。母親は泣いてばかりいる。仕事を終えて彼がアパートに戻っても、ほっと出来る場所ではないのです。

シュ: 彼らはなぜ東電を辞めないのですか?

重: それには理由が沢山あります。私が話をした限りでは、彼らは東電への忠誠心があり、会社を救いたいと思っている。金のため、という人もいる。福島第1で働くのは毎日3000人ほど。複雑な作業は東電社員や日立、三菱といった会社の社員が行う。簡単な作業は下請企業が雇った人々が行う。精神科医7人のチームで、責任の重い作業員を優先します。それだけでも1000人以上になります。その中で、特別のリスクがあるケースの治療に当たります。つまり、同僚や家族を失った人、あるいは経済的な問題を抱えている人です。全部の作業員を診たいのは山々ですが、それは不可能です。どこかで妥協しなければならなかった。

シュ: これ以上やっていけない、という人々にはどうアドバイスをするのですか?

重: 一番大切なのは、これまでの作業に感謝し、支援する、というメッセージです。休むようにアドバイスすることはほとんどありません。仕事を続けられるならそのほうがよいからです。さもないと、同僚から、あいつは弱い、と思われ、精神障害者と烙印を押されてしまう。[これまでの作業に感謝し、支援する、というメッセージを伝えることで、]自分たちはグループの一員であるという意識が生まれる。仕事から離れる、というのは最後の手段です。

シュ: 日本の人々は放射能をどの程度怖がっていますか?

重: 情報が交錯する中、人々は政府、専門家を信用していません。そのような状況で、噂や誤情報があっという間に広がる。危機的状況において、情報伝達は素早く、透明性を持ち、正確に行わなければならない。パニックを防ぎたければ、できるだけ多くの情報を公開して人々が危険を理解し、判断できるようにしなければならないのです。しかし、日本政府はこのようなリスク・コミュニケーション(情報伝達)についてあまり知りません。政府がメルトダウンに関して口をつぐんだため、人々はより不安になりました。

シュ: この災害が被災地にもたらした精神的な影響は?

重: 精神的な影響が明らかになるのは何年も先のことでしょう。東北地方の自殺率は上がると思います。今回の震災以前から、自殺は多いのです。冬は長く寒い。仕事もあまり無く、人々は我慢強いことで知られる。つまり、問題があっても話さないことが多いのです。それに加えて、放射線への恐怖がある。そのせいで、二つに割れる福島の社会が出てくる。例えば田村市では、半分は出て行きたい、半分は残りたいと思っている。これは家族、友人関係の危機でもあります。妻は出たいと思っても夫は残りたいかも知れない。放射線の問題で、社会関係が壊れてしまう可能性があります。

シュ: そのような対立はどうしたら克服できるのでしょうか?

重: 私には答えられません。「村に帰っても大丈夫ですよ」、と私が言えるわけもありません。どのようなケースでも、人々はどこに、どのように暮らすかについての広い選択を与えられるべきです。仕事も創出される必要がある。仕事があることで将来の見通しが付くようになるからです。避難者の間で大きな問題になっているのが失業です。避難者にとって、正規の職を見つけるのは難しい。誰も、いつ帰還するのか分からないからです。一年先か、10年先か、それとも一生戻らないのか。

Heike Sonnbergerインタビュー

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Monday, February 27, 2012

BBCドキュメンタリー「メルトダウンの内側(Inside the Meltdown)」

2012年2月23日に放送された英BBCのドキュメンタリーは、福島第1原発事故の初期のビデオが使われています。

管首相をやたらに持ち上げているのはいまいましい限りですが、事故初期のビデオなど見る機会はめったにないので、必見。(但し、英テレグラフ紙の評は、どこまでが当時のビデオでどこまでがドキュメンタリー用に新たに制作したのか、はっきりしない、とは言っています。)

私が驚いたのは、東京消防庁の隊員がホースをつなげて放水を行う作業をしている様子。そういえば消防車で放水していたなあ、とは覚えていますが、ホースを必死につなげていたのが真っ暗な夜で、しかも空間線量毎時100ミリシーベルトの環境で1時間かけてつないでいた、などとは知りませんでした。



全部の長さは約1時間。このリンクがいつまで持つかは不明ですが、画像だけでもご覧ください。日本人へのインタビューは吹き替えではなく字幕なので、何を言っているのかはちゃんと分かります。フルスクリーンがお勧め。



しかし驚いた。BBCは津波が引いた直後の原発を上空から撮影したビデオまで持っている。どこから手に入れたのだろう?

Youtubeリンク: http://youtu.be/IwBELPtVUCA

警戒地域から避難した子供たちが語る日常をつづったBBCのドキュメンタリー、「津波の子供たち」もお見逃しなく。こちらです。

Saturday, February 25, 2012

2011年の日本の中古車輸出台数は福島原発事故にもかかわらず微増、85万台を越していた

名古屋港から国内外へ輸送予定だった中古車500台から業界基準(毎時0.3マイクロ)を超える放射線が検出されていた、という2月25日付けの共同ニュースを読んで、いったい日本からの中古車をどこの誰が何台買っているのだろう、と検索してみたら、かかったページがその名もずばりの「中古車輸出業界ニュース」。

貿易商社による中古車輸出ガイド」というサイトの一部のようですが、「中古車輸出業界ニュース」のページののナビゲーションは文字リンクをクリックするだけで、元のサイトへのリンクバックはありません。それでも、探していた情報がストレートに出ていました。

日本がこんなに中古車を輸出しているとは知らなかった。ロシアがダントツですが、2011年に輸出台数が大幅に増えたのがパキスタン、モンゴル、ミャンマー。

「中古車輸出業界ニュース」2012年2月最新ニュースより:

2011年の輸出総数と上位30国
順位2011年輸出台数合 計857779
1ロシア110791
2アラブ首長国連邦80712
3チリ69473
4ニュージーランド68091
5南アフリカ共和国67458
6ケニア39248
7スリランカ38496
8パキスタン37880
9モンゴル35983
10ウガンダ23791
11キルギス23542
12マレーシア21791
13ミャンマー19625
14タンザニア18714
15フィリピン18327
16バングラデシュ16028
17タイ13529
18香港10781
19ボツワナ10256
20ザンビア9815
21スリナム9317
22アフガニスタン8708
23モザンビーク7900
24ペルー7253
25ガイアナ6294
26グルジア6199
27ジャマイカ5989
28トリニダード・トバゴ5559
29中華人民共和国5559
30オーストラリア5545

2010年の輸出総台数と上位30カ国は、

2010年の輸出総数と上位30国
順位2010年輸出台数合計838401
1ロシア105478
2アラブ首長国連邦86625
3チリ79430
4ニュージーランド68952
5南アフリカ共和国66575
6ケニア50749
7バングラデシュ29155
8スリランカ27029
9フィリピン24296
10マレーシア23611
11ウガンダ22429
12タンザニア20979
13ペルー20378
14モンゴル19639
15タイ16142
16香港12411
17スリナム11855
18パキスタン9509
19キルギス9242
20グルジア8888
21ミャンマー7653
22アフガニスタン7588
23インドネシア6273
24ガイアナ6237
25オーストラリア5879
26キプロス5597
27モザンビーク5307
28トリニダード・トバゴ4996
29モーリシャス4920
30ザンビア4752

もっとも、2008年の数字を見ると輸出総台数が134万台ですから、2008年の秋冬の世界的な金融危機に触発された世界的な不況による落ち込みから回復していない、ということなのでしょう。

Friday, February 24, 2012

報道ステーション:南相馬の高線量「黒い物質」の正体は?

南相馬市で昨年末から発見が報告されている「黒い物資」から放射性セシウムがキロ当たり100万ベクレル以上検出されたことを受け、2012年2月23日放送の報道ステーションでこの物質の正体に迫る?という報道がありました。

その正体は、「藍藻(らんそう)」??

藍藻は「藻」と名が付いているものの、実はCyanobacteriaと呼ばれる真正細菌。全世界に広く分布しています。東北大学の鈴木三男教授、神戸大学の山内教授とも、この微生物による生体濃縮でセシウム濃度が高くなっている可能性を指摘しています。

素人の私が疑問に思ったことを順不同で羅列してみます:

  • アルファ線、ベータ線の線量が高いようだが、アルファ、ベータ核種の同定は行う予定があるのかどうか?

  • 藍藻はそれこそあらゆるところに存在するが、これがセシウムを濃縮しているのは南相馬市だけなのか?福島の他の市町村では同様の物質が発見されていないのか?

  • 発見されていないとしたら、なぜ南相馬市だけが特別なのか?

  • このような高線量の物質が遍在する場所を高圧洗浄機その他の機器を使って除染などして安全なのか?

  • 黒い物質と藍藻は別々に存在していたのではないか?黒い物質が吹き溜まったところに水が滞って藍藻が育った、ということではないのか?



最初にこの物質の写真を見たのは「消えない夜」というブログでした。黒い、非常に細かい砂のように見えました。

私は南相馬市でも「除染」に使っているタイプの高圧洗浄機を使ってコンクリ、アスファルト、家の外壁を洗浄したことがありますが、あれは「洗浄」というよりコンクリ、アスファルト表面を水圧でこそげ取るのです。高圧で洗浄した後に水圧を下げて表面に水を流すと、表面の土ぼこりなどの汚れのほかに、コンクリ、アスファルトが削られて出来た細かい粒子が流れていくのが見えます。目の粗いアスファルトは水圧を高くしすぎると表面が吹き飛んでしまいます。家の外壁も同じで、外壁が木の場合、水圧に注意しないと木目に沿って削れてしまいます。要するに、水を使った「研磨」なのです。

報道ステーションでも、「南相馬だけじゃないかもしれない、他の場所でも発見されているのかもしれない」と言っていましたが、発見されたという話は聞きません。もっとも、群馬大の早川先生などは、線量がある程度高い場所の土壌を1ミリ削ればあんなものだ、といってらっしゃったツイートがあった気がします。

ただ、早川先生のおっしゃるとおりだとしても、なぜ南相馬市であのように吹き溜まっているのかの説明は付きません。

Saturday, February 18, 2012

ニューヨークタイムズ: 訳の分からない放射能除染 (記事全訳)

日雇いの労働者は放棄された学校の窓を拭きながら、彼の作業グループの行き当たりばったりの仕事振りにしょうがないとばかりに肩をすくめる。「みんな素人だからね」、と彼は言う。「放射能をどうやってきれいにするか、誰も本当のところ知らないんだ。」

何の資格も技能も無い日雇いの労働者でも、一日に2万5千円稼げる除染は大きなビジネス、とレポートしたのは、2012年2月10日付けのニューヨークタイムズ紙のタブチ・ヒロコ記者。以下に、私訳をお届けします。長い記事なので、英文の元記事の文章は省略させていただきました。

元記事: ”A Confused Nuclear Cleanup” (2/10/2012) By Hiroko Tabuchi

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2012年2月10日ニューヨークタイムズ

訳の分からない放射能除染

タブチ・ヒロコ

飯舘村 - 福島第1原発から20マイル(約32キロ)のところにあるこの村に、ハズマットスーツを着てマスクをつけた作業員500人が散開し除染を行う。彼らの困惑は明らかだ。

「5センチ掘るんですか、それとも10センチ?」現場監督はは同僚に聞きただし、取り除く予定の表土を指差す。その後、村の広場の向こうにある公民館を指して、「あれは取壊すんじゃなかったですか?除染するんですか、しないんですか?」

日雇いの労働者は放棄された学校の窓を拭きながら、彼の作業グループの行き当たりばったりの仕事振りにしょうがないとばかりに肩をすくめる。「みんな素人だからね」、と彼は言う。「放射能をどうやってきれいにするか、誰も本当のところ知らないんだ。」

確かに、誰も本当のところを知らないのかもしれない。しかしそれしきの事で挫ける日本政府ではなかった。手始めとして、政府は130億ドル(1兆円)分の契約を発注し、8000平方マイル(2万720平方キロ)を超す、放射性降下物に最もさらされた地域 - 米国のニュージャージー州と同じ広さ - を再生しよう、というのだ。最大の目標は、昨年3月の原発事故現場の近くに住んでいた8万人以上の住民が帰還できるようにすること。その中には飯舘村の6500人の村民も入っている。

ただ、その除染方法が効果的であるかははっきり分かっていない。

除染プログラムを批判する人々にとって更に気がかりなのは、政府が最初の契約を発注した先が大手ゼネコン3社であったことだ。放射能除染の専門知識・経験が飛びぬけてあるわけでもないのに、日本政府の原発推進で大いに利益を上げてきたのが大手ゼネコン会社、というわけだ。

市民の監視グループである原子力資料情報室によると、このゼネコン3社で日本にある54の原発のうち45を建設している。そのうちの1つ、福島第1原発では、原子炉建屋やそのほかの発電所は津波に耐えることが出来ず、壊滅的な機能不全に陥った。 【訳注:ニューヨークタイムズの記者は原子力発電所と原子炉を混同している模様。54あるのは原発ではなく、原子炉。ニューヨークタイムズには記載が間違っている旨メールしましたが、返事なし。】

3社のひとつが大成建設で、ジョイントベンチャーの元締めであり、今飯舘村にハズマットスーツを着た作業員を送り込んでいる。大成のジョイントベンチャーと他の2社、大林建設と鹿島建設が元締めのジョイントベンチャーの3つで、最初の12の政府除染実験プロジェクト合計9千3百万ドル(約74億円)を受注した。

「詐欺ですよ」と言うのはサクライ・キヨシ氏。原子力業界を批判する氏は、日本原子力研究開発機構の前身機関の研究者だった。日本原子力研究開発機構は現段階での除染を総括している。「除染はビッグ・ビジネスになりつつあります。」

除染契約は原子力業界と政府の間に長い間存在してきたなれあいの関係を象徴するものだ、とサクライ氏などは批判する。

「日本の原子力業界は失敗すればするほど金を多くもらえるように出来ている」、とサクライ氏は言う。

日本原子力研究開発機構は、ゼネコン大手が今後も大半のプロジェクトを受注するとは限らない、と言っている。今後のプロジェクトの発注を行うのは環境省になる。しかし、大手ゼネコン側は今後も元締めとして参画し続けるつもりであることをほのめかしている。

「実際に作業しながら経験を蓄積しているのです」、と言うのは、大成の広報のヒライ・フミヤス氏。「試行錯誤のプロセスですが、私たちには除染の仕事をやっていくのに十分な能力があります。」

鹿島と大林は、現在進行中のプロジェクトについてはコメントできない、と言っている。

環境省のセイマル・カツマサ氏によると、大手ゼネコン各社は必要な作業員をあつめることが出来、道路、山林の除染など大規模なプロジェクトをまとめる力があり、除染作業員をきちんと被曝から守り、被曝を監視する能力が一番高い、という。

「原発推進だったかどうかではなく、除染に何が出来るかが重要なのです」、とセイマル氏は言う。

他のゼネコンも何とかして一枚加わろうと必死だ。1月の末、前田建設が環境省から除染契約を受注した。前田建設の入札価格は予想されるコストの半分以下で、明らかに損失覚悟で足がかりを掴もうとする手口に対して大成を含む他の入札者から苦情が出た。【訳注: 楢葉町役場周辺の除染プロジェクトで前田建設の入札価格は大成、大林の10分の1。コストの半分、という情報はどこから来たのか不明。前田建設の次に低い価格を提示したのは清水建設。詳しくは朝日新聞1月22日付け記事ご参照。】

今月の初め、警戒区域のすぐ外側の南相馬市は、大手ゼネコングループに発注する除染プロジェクトに400億円(5億2500万ドル)を計上すると発表した。議論はさておいて、日本が重要な作業を行っていることには間違いない。この作業は1986年ウクライナのチェルノブイリ原発事故の後に行われた部分的除染をはるかに超える予定だ。チェルノブイリでは、原発から半径19マイル(約30キロ)の地域が事故後4半世紀が経った現在でも、ほとんどが立ち入り禁止のままになっている。

しかし、どのような除染方法が日本で有効なのかについてはほとんど合意がない。放射性物質は風や雨で簡単に移動し、一度除染作業が終わってからも町を再汚染するかもしれない、と専門家は言う。

「除染の専門家はまだ存在しません。国が大手ゼネコンに大金を払わなければならない理由などないのです」、と言うのはタオ・ヨウイチ教授、工学院大学の物理学の客員教授だ。教授は飯舘村の村民が除染方法を自主テストするのを手伝っている。彼はまた、エネルギー庁の除染プロジェクトの効果の有無を監視している。

主契約を受注するのは大手ゼネコンでも、実際の除染 - 単純だが手間のかかる、ごしごしこすったり穴を掘ったりする作業 - は多くの下請けや孫請け会社が行い、更にこれらの会社は、一番ひどい除染作業を行うのに訓練されていない日雇いの労働者に頼っている。

下の階層へ行くにつれて手数料がピンはねされ賃金が低くなっていく、というこの階層構造は、日本の原子力業界、建設業界ではおなじみのパターンだ。

飯舘村のプロジェクトの作業員はほとんど地域外から来ている。学校の窓を拭きながら自分で素人だと認めた作業員、シバタとだけ名乗る彼はもともと自動車工で、160マイル(約257キロ)離れた千葉に住んでいるのだ、と言う。「見入りがよくてさほど危険でない」仕事が福島である、というニュースに飛びついたと言う。

シバタさんは一日に4時間シフトを2つやっている、と言う。寝泊りするのは近在[地元?]の温泉リゾートだ。シバタさんや同僚の作業員は賃金の話をするのを断ったが、地元のニュースによると除染作業の賃金は一日2万5千円、およそ325ドルになる、という。

ペーパータオルで窓を拭きながら彼は言う。「タオル一枚で拭くのは一度。さもないと、放射性物質がただ広がるだけだからね。放射線が見えるわけじゃないけど。」

その通り。昨秋、飯舘村公民館の同様の除染プロジェクトは村によって行われたが、放射線を安全なレベルまで下げることは出来なかった。

大成、ゼネコン各社によるパイロット事業は早くも思わぬ障害にぶつかっている。日本政府は、汚染された庭や畑からそぎ取った大量の汚染土を[地元で]保管しておくことへの住民の抵抗を予期できなかったのだ。

一方、政府・ゼネコンの除染プロジェクトを批判する人々は、地元の会社や自治体の方が除染を安上がりに行うことが出来、地元の雇用創出にもなる、と言う。

飯舘村の住民の中には、大学の専門家の手を借りて自分たちで何とかしようとし始めている人々もいる。彼らの実験によると、除染はまず飯舘村の面積の4分の3を占める山林から始めなければならない、とのことだ。

「うちを除染してもらっても、放射能はまた山から降ってくるからまた全部汚染される」、と言うのは、農業を営む60歳のカンノ・ムネオさんだ。他の飯舘村の住民と同じく、カンノさんも原発事故から1ヶ月以上村に留まっていた。放射能雲が飯舘村に到達しているのを知らなかったのだ。

カンノさんは5月に村から避難したが、週末には帰村していろいろな除染方法を試している。最近は物理学者のタオさんを伴って近くの山に行き、枯葉を地面から取り除くことでどれだけ放射線が下がるかを実験している。

彼らの作業には公的資金は出ていない。すべて寄付と、村人たちの無償労働で支えられている。つい最近でも、70歳の人々数人を含む10数人のボランティアが朝、雪の積もった山林に入って枯葉を掻き出し、布の袋に詰めていた。普通の服にマスクをしただけの格好だった。

「この土地のことはゼネコンより私たちのほうがよほど良く知っている」、とカンノさんは言う。「金は跡形も無くどこかに消えているんじゃないかと思うよ。」

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記事に付随しているスライドショーはこちら

飯舘村の土壌からは、ネプツニウムプルトニウム が検出されています。飯舘村のジョロウグモは体内に放射性銀を濃縮していました。去年の4月当初、IAEAは村の土壌からキロ当たり2千万ベクレルのヨウ素131を検出した、と発表しています。

飯舘村で4時間シフトを2回、合計8時間働くと、記事に登場したシバタさんの被曝量は空間線量が平均で毎時5マイクロとして、一日で40マイクロ、一週間(実働5日として)200マイクロ、1ヶ月で800マイクロ。アルファ線、ベータ線核種からの被曝の可能性を考慮に入れると、実際はもっと高い被曝である可能性があります。

日雇い労働者に「さほど危険ではない」仕事、と嘘をついてまで、飯舘村を始めとした計画避難区域、警戒区域の高汚染地域の「除染」をすることが、そんなに必須のことなのでしょうか?それとも、労働者を「放射能スポンジ」(Radiation sponge)として使っている、とでも言うのでしょうか?

【記録】2011年3月20日付けの首相官邸からのお知らせ「東北、関東の方へ-雨が降っても、健康に影響はありません。」

消える前に。

http://www.kantei.go.jp/saigai/20110321ame.html

東北、関東の方へ――雨が降っても、健康に影響はありません。

雨が降っても、健康に影響はありません。ご安心ください。
場合によっては、雨水の中から、自然界にもともと存在する放射線量よりは高い数値が検出される可能性はありますが、健康には何ら影響の無いレベルの、極めて微量のものであり、「心配ない範囲内である」という点では普段と同じです。
加えて、次のような配慮をすれば、さらに安心です。

 (1)特に急ぎの用事でなければ、雨がやんでから外出する。
 (2)頭髪や皮膚が、あまり雨で濡れないようにする。
 (3)頭髪や皮膚が雨に濡れても心配は無いが、気になる場合は、念のため流水でよく洗う。

繰り返しますが、これらの措置を取らなければ健康に影響が出るという意味ではありません。「安心」を、より確かなものにするための対応です。
[ 更新: 3/20 11:30 ]
スクリーンキャプチャー:

Tuesday, February 14, 2012

飯舘村にある大成建設除染作業本部の写真(ニューヨークタイムズ紙)

ニューヨークタイムズ紙2012年2月10日記事『訳の分からない放射能除染』に出ているスライドショーから、飯舘村の中央にある大成建設除染本部の様子。

記事はただいま翻訳中。お待ちください。


大成建設作業員による「除染」風景。ちなみにこのペーパータオルは、原発で「ウェス」と呼ばれる、除染に使用するものと同じだそうです。

Sunday, February 12, 2012

「干しシイタケ、水で戻せば放射性セシウムの値が下がる」のか?

横浜市港北区のスーパーをはじめ、各地で現在の放射性セシウム暫定基準値(キロ当たり500ベクレル)をはるかに超える干ししいたけが店頭で売られていたことが判明しています。

それを報道するニュース、また、出荷していた業者の「おわび」などでよく言及されているのが、

『水戻しして食べる際には数値は7分の1程度に下がり、対象商品を食べても健康への影響はたいへん少ない』 (Exciteニュース

『水戻しして食す際には逆に7分の一程度に下がります。食された場合でも健康被害はたいへん少ないことをお知らせいたします』 (長野の業者のホームページ

このような発言をぼーっと読むと(私のように)、2000ベクレルあったセシウムが水に戻すとだいたい300ベクレル以下に(どういうわけか)減ってくれるのだ、と思ってしまいますが、ボケッと流していないで、ちゃんと考えてみることにします。

1.干しシイタケ一袋、100グラムとしましょう。そのシイタケが乾燥状態でキロ当たり2000ベクレルあったとすると、100グラムの袋には200ベクレルのセシウムが入っています。

2.袋の中に干しシイタケが40枚入っているとしましょう。1枚当たり、5ベクレルのセシウムになります。

3.このシイタケを水で戻します。どれくらいのセシウムが水に溶出するのかは不明(誰か測ってますか?)ですが、ボールに乾燥しいたけ1枚いれて水をいれ、戻します。この水と戻したシイタケに含まれているセシウムの絶対量は減ったでしょうか?

当たり前ですが、減りません。戻したシイタケ1枚食べるだけで、5ベクレル近くのセシウムを食べることになります。

この100グラム袋のシイタケを戻して調理して食べれば、水に溶出した分を除いても、おそらく袋のシイタケに入っていた大部分のセシウムを食べることになるのです。

水で戻せばセシウムは7分の一に減る、というのは、水で戻したために放射能が減ったのではなく、水で戻したためにシイタケの重量が7倍になった、というだけの話だと思います。

1キロの干しシイタケを水で戻すと7キロになる、従って、乾燥状態で存在していた2000ベクレルのセシウムは水で戻した後も同じく存在するが、キロ当たり2000ベクレルではなく、「水で戻したあとの7キロ当たり2000ベクレル」、つまり、キロ当たりにすると7分の1、ということになるわけです。

検査して流通させたい側(行政、生産者、加工業者、流通業者、小売)はあくまで「キロ当たり」、「水に戻した状態」にこだわります。それが行政の造ったルールだからです。しかし、食べる側にとっては、入っている絶対量が問題なのです

放射能汚染の高いがれき、ごみを、汚染の少ないがれき、ごみに混ぜてキロ当たりの放射能が少なくなれば燃やしても埋めてもOKという考え方と非常によく似ています。

乾燥食品は水戻しすれば放射濃度が減る、という記載をお読みになるとき、これは「あくまでキロ単位の話」で、袋に入っている絶対量は変わらない、ということをお忘れなく。

Friday, February 10, 2012

サウス・カロライナ大学ティモシー・ムソー教授 「第一世代の動物にすでに放射線の負の影響が出始めている」(チェルノブイリからみた福島における鳥の個体数論文概要より)

先のポストで書いたインデペンデント紙とNHK報道の齟齬についてムソー教授に直接問い合わせたところ、すぐに返答を頂きました。

教授によると、福島での調査は昨年の7月に行い、日本側の立教大学、東京大学、長崎大学、福島大学の研究者と共同して行った、とのこと。今年の5月から行う研究は、昨年の研究のフォローアップとして新たに行うものだ、とおっしゃっていました。

7月の研究が今になって発表されることについて、ピアレビュー雑誌の論文掲載にはこれくらいの期間(去年の7月に研究してから今年の2月の論文掲載までの期間)があるのが普通で、科学的根拠(Scientific evidence)となるためにはピアレビュー雑誌に掲載されるのが最低限必要だ、とのこと。

教授が送ってくださった、サウスカロライナ大学チェルノブイリ研究イニシアチブのリンクには、論文の概要が日本語でも記載されていましたので、以下の通りコピーします。(強調は私):

Abundance of birds in Fukushima as judged from Chernobyl
チェルノブイリからみた福島における鳥の個体数

Abstract
概要

福島とチェルノブイリで共通して生息する鳥類の個体数におよぼす放射性物質の影響が今回の研究で比較・検討された。鳥の個体数と放射線量に負の関係が見られたが、福島とチェルノブイリでは重要な違いが見られた。福島とチェルノブイリの2つの地域で共通して見られた14種の鳥類の個体数に放射線量の負の影響が見られたが、両地域間と鳥の種間で放射性物質による影響が異なった。14種の鳥の個体数と放射線量の関係は、チェルノブイリよりも福島でより強い負の関係が見られた。これらより、2011年3月11日の福島での原子力事故から間もない3月から7月の鳥の繁殖期間に、すでに放射線の負の影響が出始めていることが明らかになった。

Summary
まとめ

日本、デンマーク、そしてアメリカから集まった研究者らによる調査で、福島県内の放射性物質による汚染が高い地域で鳥の個体数が減少していることが明らかになりました。立教大学、長崎大学、福島大学、Paris-sud大学、そしてサウスカロライナ大学の研究者らは、2011年7月、福島県内の300に及ぶ地点で鳥の種数と個体数を調査しました。これらの調査地点は、放射性物質の汚染レベルのデータを元に選択されました。放射線量が最も高い地点は、1時間あたり35マイクロシーベルト、最も低い所で1時間あたり0.5マイクロシーベルトでした。それぞれの調査地点での鳥の個体数と種数は、研究者らによる目視と鳥の鳴き声により調査・判別されました。これらのデータは最新の数学的手法と統計学を用いて解析され、放射線量が異なる地域間で鳥の個体数がどう異なるか調べました。その結果、全体的に鳥の個体数は放射線量が高い所でより少なくなることが明らかになりました。研究者らは、福島での調査結果をチェルノブイリでの調査結果と比較しました。その結果、福島とチェルノブイリの両地域で14種の鳥類が共通して見られ、これらの鳥類においては、チェルノブイリより福島の方が、その個体数に強い負の影響をおよぼしていることが明らかになりました。これにより、福島に生息するこれら14種の鳥類は、チェルノブイリで25 年間放射線を浴びている鳥類よりも、より敏感に放射線量に反応していることが推測されました。しかし、両地域で見られる全ての鳥類を比較したところ、放射線量と鳥類の個体数の関係は、福島よりもチェルノブイリでより強い負の関係が見られました。この発見は、ほとんどの鳥類がチェルノブイリの汚染地域からいなくなっていることを示唆しています。全体として今回の研究で明らかになったことは、チェルノブイリと福島での両地域で数多くの共通した結果が見られ、福島では放射線にさらされてから間もない第一世代の動物にすでに放射線の負の影響が出始めている、ということです。この研究は、QIAGEN GmbH(会社)、サミュエル・フリーマン チャリティー基金、フランス国立科学研究センター、そしてアメリカ合衆国サウスカロライナ大学による資金提供によって行われました。

日本語訳:梶田幸江 (Translated by Yukie Kajita, University of Kentucky)

英語を見ると、「第一世代の動物にすでに放射線の負の影響が出始めている、ということです」、とは断言しておらず、"[this research] provides some clues to the effects of exposure to radiation of the early, first generations of animals" つまり、「この研究は、第1世代の動物の放射線被曝の影響を理解するいくばくかの手がかりとなるものである」、程度の軽い記述なのですが、この点について更に教授に伺ったところ、確かに違っており日本語の表現はきつくなっているが、趣旨は日本語のままでよい、とのことでした。

リンクの英語版の概要に載っていた日本人研究者の名前は、

Atsushi Hagiwara, Shin Matsui, Satoe Kasahara, Kencho Kawatsu, Isao Nishiumi, Hiroyuki Suzuki, Keisuke Ueda

の7人。

また、リンク先の英語のイントロに、去年の7月に教授が行った時点での福島の放射線量について言及しているところがあります。ホットスポットで毎時100マイクロを越えた場所があった、とおっしゃっています。

Contamination levels across large areas of the prefecture were higher than expected by the team, with many areas > 10 microsieverts per hour. Several “hot spots” were detected that exceeded 100 microsieverts per hour. And much of the heavily populated areas (e.g. Fukushima City and Koriyama) had areas where levels were in excess of 1 microsieverts per hour (about 9 millisieverts per year), a level that has been shown to negatively influence birds and insects in Chernobyl following 20 years of exposure.

福島県の広い範囲での汚染のレベルは、チームが予想していたよりも高く、毎時10マイクロシーベルトを超える場所も多くあった。ホットスポットのいくつかは毎時100マイクロシーベルトを超えた。福島市、郡山市などの人口の多い地域には、放射線レベルが毎時1マイクロシーベルトを越える場所があった(これは、年間で9ミリシーベルトになる)が、このレベルは20年間の被曝を経験したチェルノブイリで鳥や昆虫に悪影響が出ることが分かっているレベルである。

「科学的根拠」という権威のためとはいえ、このようなことを去年の7月、8月に知っていたら異なった行動を取った福島の住民の方々もいらっしゃるんではないかと思うと、複雑な気持ちです。放射能の影響についての情報、データが出てこないままで避難しない「選択」をされた方々が、本当に選択をするのに必要だった情報の一つではなかったかと思います。

英語の論文は、こちらのリンクから購入することが出来ます。

Wednesday, February 8, 2012

福島県伊達市市長: 「放射性セシウムがあることを前提にコメをつくり、検査して汚染米を市場に出さない仕組みが重要だ」

福島県伊達市は、2012年度から設定される食品の放射性セシウムの基準100ベクレルに基づいた米の作付け制限の方針の見直しを国に要望する予定。

というのも、キロ当たり500ベクレルを超えた地域に加えてキロ当たり100ベクレル以上出た農家が複数ある地区を作付け制限すると、市全体の水田の64%近くが作付け制限になり、米の作付けが出来なくなるのだそうです。

そこで市長の発言、「放射性セシウムがあることを前提にコメをつくり、検査して汚染米を市場に出さない仕組みが重要だ」、となるわけです。そうすれば、全域で作付けが可能だ、ということです。基準値を超えた水田は、試験栽培にすればいいのだそうです。

朝日新聞福島地方版2012年2月8日付け記事

作付け不能6割超/伊達市

●方針転換要望へ

 国が検討している今年産米の作付け制限について、伊達市は7日、「今のままでは市内の6割を超す面積で作付けが出来ず、影響が深刻過ぎて従えない」として、方針の転換を求めていくことを明らかにした。

 この日の市災害対策本部会議で、今月3日に開かれた国との協議内容を報告。作付け制限に関する国の考え方を説明した。

 市は3日の協議を踏まえ、放射性セシウムが国の暫定基準値(1キロあたり500ベクレル)を超えた旧6町村と、4月から導入される新基準値(同100ベクレル)を複数の農家が超えた旧6町村が作付け制限の対象となると試算。全市の水田1336ヘクタールの63.7%にあたる851ヘクタールで作付けが出来なくなるという結果になった。霊山地区や月舘地区の水田は、全域が作付け制限の対象となる。旧21町村のうち、作付けが可能になるのは旧9町村にとどまる見通しだという。

 市は制限の規模が大きく、耕作意欲が落ちて再開が難しくなり、農業の崩壊につながると反発。昨年産米で国の暫定基準値を超えた水田では試験栽培などで市場に流通させないほか、検査態勢を強化すれば、全域の作付けが可能だとしている

 近く、国と改めて協議する。また、福島市や本宮市もすべての作付けを目指しており、連携して方針の転換を求めていくという。

 仁志田昇司市長は「放射性セシウムがあることを前提にコメをつくり、検査して汚染米を市場に出さない仕組みが重要だ」と訴えている。

検査して、と伊達市長はおっしゃいますが、去年の検査は本検査でも旧市町村わずか数箇所、500ベクレル超えが複数出てから地域限定で行った再検査(伊達市を含む)でも、農家1軒あたり1袋の検査(正確には50袋毎、ほとんどの場合1軒1袋)。同じ農家の水田でも場所によって汚染度が違ったり、地形、土壌が異なったりしている可能性もあるわけで、それを1袋の検査で済ませられても消費者は納得しないでしょう。

本検査で検出なしの地区も、たまたま選ばれた農家から出なかった、と言うだけに過ぎません。

ツイートで出しましたが、福島市渡利地区で採取されたミミズの糞から137万ベクレルの放射性セシウムが出ています。

農家の耕作意欲、とこの記事にもあり、他でも聞きますが、福島農家はこのような汚染された土地で放射性物質入りの米を耕作する意欲が旺盛なのでしょうか?一消費者としては、これはもう理解不能です。福島米農家の意欲を保つために、消費者はもしかしたら入っているかもしれない放射性物質を気にしながら米を食べなくてはいけない、ということなのでしょうか。

日本人は同一民族で同じ文化を共有している、とはだんだん思えなくなってきました。

Saturday, February 4, 2012

【記録】 管政権が「存在しないこと」にした、福島第1原発事故最悪シナリオ

現環境大臣(当時首相補佐官)の細野氏が「混乱を恐れたため閲覧を限定し」存在を隠した(公式文書として認めていなかった)ことを認めた原子力委員会の「最悪シナリオ」については、「公開するかしないかが問題なのではない。情報に基づいて政府が行動したかどうか。結果、何もしないで情報だけ隠した。そこが問題。隠しただけでなく、放射能安全キャンペーンまで打った」、と以前ツイートでも書きましたが、ツイッター上でそのシナリオという名目の文書がアップされていました。

真偽のほどは私には分かりませんが、以前、共同ニュースに出た写真と詳細は見えないものの同じものであるように思えます。

以下、「最悪シナリオ」全15ページ、コピー。まだ斜め読みした段階ですが、使用済み燃料プールが干上がってメルトダウンを起こし、コア・コンクリート反応を起こしながら下の階に落ちていく、という事象を想定していたようです。米国原子力規制委員会も使用済み燃料プールを気にしていました。















「福島第1原発事故による低レベル放射線の鳥などの生物への影響」は既に研究されていた模様 (英インデペンデント紙記事訳)

しかも、来週発表される予定の論文の結論は

  • 3月から7月の主要な繁殖期間中に放射能が鳥に即座に悪影響を与えた

  • 個体数への影響は日本の被災地のほうがひどい

というもの。

昨日NHKニュースで流れたこのニュース (堀 潤 さんのツイート連投より):

東京電力福島第一原子力発電所の事故で放出された放射性物質が、周辺に生息する生物にどのような影響を与えているのかについて調べるため、アメリカの大学の研究チームが、ことし5月から、福島県などで本格的な調査を始めることになった。

調査に当たるのは米国サウスカロライナ大学のティモシー・ムソー教授の研究チーム。ムソー教授の研究チームはチェルノブイリ原発事故で放出された放射性物質が周辺地域に生息する鳥や虫、植物等の生物にどのような影響を与えているのかを13年以上にわたり継続的に調査。

ムソー教授の研究チームが、チェルノブイリ原発事故による周辺地域への影響について調査した結果、毎時1マイクロシーベルトから3マイクロシーベルトといった低い線量の地域でも、鳥や虫などの生物に個体数の減少や異常が見られたとしている。

サウスカロライナ大学のムソー教授の研究チームは、東京電力福島第一原発の事故でも、鳥や虫などの生物を長期に渡って調査することで、低い線量の放射線の影響が分かるのではないかとみており、日本の研究者などの協力を得ながら、長期的に調査したいとしている。

研究チームを率いるムソー教授は、調査に向けた準備のため、今月中旬から福島を訪れる予定で、「鳥などの生物は、世代交代のペースがヒトと比べて早く、放射線が遺伝に与える影響も調べることができる。ヒトへの影響を調べるうえでの手がかりになる」と話している。

いかにも今年の5月からアメリカの研究者が日本側の協力を得て行うような書きぶりです。

しかし、英国インデペンデント紙の2月3日付けの記事によると、ティモシー・ムソー教授を初めとするデンマーク、日本の研究者を含む研究グループは(おそらく)昨年から福島で調査を行っており、来週論文が発表される、と言うのです。以下、デビッド・マクニール記者のレポート私訳:

Researchers working around Japan's disabled Fukushima Daiichi nuclear plant say bird populations there have begun to dwindle, in what may be a chilling harbinger of the impact of radioactive fallout on local life.

破壊された日本の福島第一原発の周辺地域で調査をしている研究者チームによると、周辺では鳥の個体数が減り始めている。これから地域の生物に放射性降下物の影響が出てくることを告げる恐ろしい前触れかもしれない。

In the first major study of the impact of the world's worst nuclear crisis in 25 years, the researchers, from Japan, the US and Denmark, said their analysis of 14 species of bird common to Fukushima and Chernobyl, the Ukrainian city which suffered a similar nuclear meltdown, showed the effect on abundance is worse in the Japanese disaster zone.

今回の研究は、過去25年間で世界最大の核危機の影響を調べた大規模な研究としては初めてのものである。日本、アメリカ、デンマークの研究者からなるチームは、同じようなメルトダウンを起こしたウクライナのチェルノブイリと福島の両方に共通する14種類の鳥を調べ、個体数への影響は日本の被災地のほうがひどいことを示した

The study, published next week in the journal Environmental Pollution, suggests that its findings demonstrate "an immediate negative consequence of radiation for birds during the main breeding season [of] March [to] July".

来週『エンヴァイロンメンタル・ポルーション(環境汚染)』誌に掲載予定のこの研究は、「3月から7月の主要な繁殖期間中に放射能が鳥に即座に悪影響を与えた」ことを示唆している。

Two of the study's authors have spent years working in the irradiated 2,850 sq metre zone around the Chernobyl single-reactor plant, which exploded in 1986 and showered much of Europe with caesium, strontium, plutonium and other radioactive toxins. A quarter of a century later, the region is almost devoid of people.

研究論文の著者のうち2人は、チェルノブイリ原発周辺に広がる2,850平方メートルの汚染地域内で長年研究を続けてきた。チェルノブイリは1基の原子炉をもつ原発で、1986年に爆発してヨーロッパの広い範囲にセシウム、ストロンチウム、プルトニウムなどの放射性の毒物をまき散らした。事故から四半世紀たった今、その周辺地域にはほとんど人が住んでいない。

Timothy Mousseau and Anders Pape Moller say their research uncovered major negative effects among the bird population, including reductions in longevity and in male fertility, and birds with smaller brains.

ティモシー・ムソーとAnders Pape Mollerは、自分たちの研究によって鳥の個体群に深刻な悪影響が生じていることが明らかになったと語る。その悪影響には、寿命の低下、雄の生殖能力の低下、通常より脳が小さい鳥の誕生なども含まれる。

Many species show "dramatically" elevated DNA mutation rates, developmental abnormalities and extinctions, they add, while insect life has been significantly reduced.

多くの種で、DNA突然変異率の「大幅な」上昇、発達異常、および絶滅が見られるとともに、昆虫の寿命も著しく低下していると2人は付け加える。

(H/T東京茶とら猫)

日本の生物学者よがんばれ、と怒っていた東大の森敏博士は、いっそうお怒りになるのではと思います。SPEEDIの情報が米軍にいち早く開示されていたのを思い起こされる方もいらっしゃるでしょう。

SPEEDIの情報が米軍に開示されたのは、米軍が資料を出してくれ、と外務省を通じて要求したので出た、というのがどうも朝日の「プロメテウスの罠」を読む限りの事実のようです。管政権の誰も、SPEEDIの情報を出せ、と要求しなかったので出なかった、という間抜けな話。

福島における生物への放射能の影響調査も、日本の生物学者はやらせてくれ、と言わなかったのか、森敏博士やその他少数の学者を除いて行こうともしなかったのか、行くなといわれていたのか(実際森先生などは行かれていますが)、さて真相は。

Friday, February 3, 2012

【記録】平成20年度 東京電力福島第一原発原子力総合防災訓練 ビデオ (電気が止まることは想定せず)



Youtubeの説明から)

「平成20年10月22日、平成20度原子力総合防災訓練が行われた。訓練は、福島第一原子力発電所3号機において原子炉へ給水する設備の故障が発生し、その後非常用炉心冷­却設備等の故障により原子炉の冷却機能が喪失し、放射性物質が外部に放出される事態を想定して、国、自治体、その他関係事業者などと合同で実施された。」

原子炉の冷却機能が喪失という最悪の事態を設定した、と言うものの、「なぜ、どのように原子炉へ給水する設備の故障が発生したのか」という肝心な想定が今ひとつ不明です。

ビデオでは、福島第1原発での訓練の一部として、火災消火訓練をしています。となると、給水設備が火事になった、という想定なのでしょうか?

どういうわけか給水設備が火災を起こし、その後次々と冷却機能が喪失したものの、冷却機能は回復し、すべてはOKというシナリオですが、福島第1原発の事故の実際を見た今となってはすべて絵に描いた餅。

電気がなければ、おしまいなのです。

今回の福島第1原発事故は、地震によって主電源が喪失、津波によって非常電源も喪失、原子炉の冷却が不可能になり、通信網の切断で関係部署との対策協議のための通信が不可能になり、道路の寸断、交通マヒで対策会議に集まるはずの人々が集まれず、という事態になりました。

訓練での初動対応、防護対策、対策室、会議。すべては明るく照らされた制御室、会議室でパソコンを使い、電話、ファックスを使って通信。ビッグスクリーンでビデオ会議まであります。

この訓練ビデオを見る限り、彼らが想定していたのは単なる機器の不具合で冷却がどういうわけか止まってしまったが、残りのインフラはすべて無事、というもので、原子力災害が単独でしか起こらない、という前提にある訓練だったようです。

ビデオを見る限り、冷却が不可能になってしまった原子炉がメルトダウンを起こすと想定したのかどうか、不明です。おそらくしてないでしょう。スリーマイル島原発事故の場合、スクラム(制御棒挿入)がかかってから4時間弱後、露出した燃料棒の一部がわずか2分でメルトダウンしています。

避難完了後6時間で放射性物質の放出が始まる、と想定した、とありますが、その頃にはすでにメルトダウンを起こしている可能性が高いのではと思います。

さて、福島第1原発が起こってしまった今、このような防災訓練はどのように見直されるのでしょうか。それとも、地震、津波と合いまった福島のような事故はそれこそ100年に1度しか起こらないから福島を想定した訓練は必要が無い、と判断されるのでしょうか。

Thursday, February 2, 2012

カリフォルニア州サンオノフリ原発続報: トラブルが起こったのは三菱重工製の新しい蒸気発生器

案外重大なトラブルかもしれません。

カリフォルニア州サンオノフリ原発3号機で漏洩があった蒸気チューブは、三菱重工製の蒸気発生器の中。三菱重工の蒸気発生器4機は、古い設備を置き換えて2010年12月に設置されたばかり。設置後、3号機が再稼動したのは2011年の2月。つまり、まだ1年しか使用していない。

事故を起こした3号機の蒸気発生器に加え、2号機の蒸気発生器でも検査の結果800本以上のチューブの肉厚が10%以上減っていることが判明。うち2本は余りに厚さが減っていたため取り外した。肉厚が20%以上減っていたチューブは69本、10パーセント以上減っていたチューブは800本以上。

3号機の蒸気発生器内で漏洩したチューブは1本、ということになっている。蒸気発生器は格納容器内に設置される。現在3号機の原子炉は十分に温度が下がり、作業員が入って調査しているが、今だに詳細は不明。

放射能漏れを感知したセンサーは原子炉建屋ではなく、原子炉に付随した建物(タービン建屋か)に設置してある。ということは、放射能を含んだ蒸気が格納容器から出て別の建屋に流れた、と言うことになる。

原発の運転者であるSouthern California Edisonは、蒸気発生器の納入の前に、三菱重工側から製造欠陥があるとの通告を受けていたが、運転者と三菱による試運転で問題が無かったためそのまま納入、設置した

蒸気発生器4機のコストは6億7400万ドル(514億円)。

今回の事故には関係ないが、先週の金曜日、定期点検中の2号機のオペフロで懐中電灯を拾おうとした作業員がプールに転落(何のプールか不明)、低レベルの放射能汚染水を飲んだ可能性があるが、検査では内部被曝はなかった。

サンオノフリ原発は加圧水型原子炉が2基ある(1基は1992年に廃炉)。三菱重工の蒸気発生器に不具合があるとすると、現在定期点検で止まっている2号機を含め、2基とも止めなくてはならなくなる可能性がある。(また去年のような大規模停電か。)

三菱の蒸気発生器自体の欠陥ではなく、その前工程の設備の欠陥である可能性もある。

Orange County Register2012年2月2日記事を参照しました。)

蒸気発生器について、ウィキペディアの記述から抜粋します:

仕組み

商用炉用蒸気発生器はメーカーによって形式が異なるので、ここでは日本国内で使用されている三菱重工業製加圧水型原子炉(PWR)の蒸気発生器を取り上げる。同社のSGの評価は高く、いくつかの輸出実績がある。しかしながら過去には製作不良による事故も経験している。

三菱重工製SGは縦置逆U字管再循環型で、直径約5m、全長約20mの円筒形をしている。SG下部から内部に向けて逆U字型の伝熱細管(直径約 2cm、厚さ約1.3mm)が管板を介して約3300本溶接されている。中ほどに2次側(給水側)入り口があり、発生した蒸気は気水分離器、湿分分離器を経て最上部から外へ出てゆく。1次冷却水が下から入りU字管内部を流れて下から出ていく間に2次冷却水と熱交換する。2次側の冷却水は1次側に比べて低圧となっており、伝熱細管内を冷却水が高速で流れている事とSG内部で盛んに蒸発が起こるため内部は激しい振動にさらされている。

SGは原子炉格納容器内に置かれる。SG一基を含む1次冷却水の回路をループと呼び、PWRではループの数によって出力が決定される。現在の100万kW級PWRでは4ループ構成になっている。

保守

SGはPWRの弱点である。原子炉の表面積のほとんどが数ミリの厚みしか無い伝熱細管で占められており、その検査と保守には多大な労苦がある。検査の結果、腐食や減肉で使用に耐えないと判断された細管は栓をされ、使用され無くなる。

蒸気発生器の健全性評価基準の一つとして施栓率がある。日本国内で初期に稼動したPWRでは、やがて施栓率が一割を越えるような状態で運転されるものもあったが、熱効率の悪化による出力低下により定格出力を保てなくなったことと、新規立地が難しくなり、原子力発電所の建て替えが進まなくなったため、電力各社は既存原子炉の延命を図り、初期に稼動した原子炉の古いSGのいくつかは交換されている。

PWRのSGは巨大な装置で、原子炉圧力容器より大きく、SG取替えはBWRの炉心シュラウド取替えと並ぶ極めて大規模な工事となる。原子炉設計時には、このような大型機器の交換工事は考慮されておらず、このため工事にあたっては、あらかじめ原子炉格納容器と原子炉建屋の一部を破壊して搬入・搬出口を設ける必要がある。

SGを使って炉心冷却系を炉心内部を経由する1次冷却系と、炉心を経由しない2次冷却系に分けることで、放射線管理が原子炉圧力容器内に限定されることになる。そのため1次冷却系の圧力モニターが”低”の信号を発したり2次冷却水の放射線モニターが”高”の信号を発した場合、1次冷却水漏洩と判断されて、原子炉は自動停止(スクラム)する。PWRでは原子炉のスクラムをトリップと言う。

事故

伝熱細管が破損すると1次冷却水は2次系へ急速に漏出する。これは2次系の圧力が1次側に比べて低いためで、これにより原子炉冷却材が急速に失われていくことになる。伝熱細管破損はBWRの主蒸気管破断と並んで、想定されている事故の中では最も深刻である。1991年2月9日に、関西電力美浜発電所2号炉で伝熱細管がギロチン破断(刃物で断ち切った様に真っ二つになる事)して冷却水が2次側に漏洩した。一次冷却水の漏出により「加圧器圧力低」の信号が発報し、原子炉はトリップ、続いて非常用炉心冷却装置が自動作動して原子炉は冷却され安全に停止した。この事故は、国内の原子力発電所でECCSが動作する最初の事例となった。その後の調査では、細破破断の原因はSGの製作不良(振れ止め金具の挿入不良)による高サイクル疲労によるものと判定され、メーカーである三菱重工による損害賠償が行われている。美浜2 号炉を含む関西電力のいくつかの原子炉では、事故の後、順次SGの交換が行われた。なお事故を起こした美浜2号炉のSGは美浜発電所構内に展示されており、一般に公開されている。

Wednesday, February 1, 2012

東京都による宮城県女川町の津波災害がれき焼却試験結果: 女川町のがれきの方が大田区、品川区のごみより放射能汚染度が高い可能性

1月31日、東京都23区清掃一部事務組合は、大田区と品川区の清掃工場で12月中旬に行った宮城県女川町の災害がれきの焼却試験の結果を発表しました。それによると、

宮城県女川町から発生した災害廃棄物を当組合の施設で焼却処理するのに先立ち、当該廃棄物を法令及び当組合の管理基準に適合した処理ができることを確認するため試験焼却を実施しました。試験焼却において、当該廃棄物を当組合の施設でおおむね20%の混合比率で焼却した結果、別紙「災害廃棄物試験焼却評価書」のとおり、法令等に適合した処理ができました。また、ごみ焼却の状況は通常ごみ焼却時と同程度でした。

ということです。

私が注目していたのは放射能濃度。本当に「ごみ焼却の状況は通常ごみ焼却時と同程度」なのか?

何しろ、福島第1原発からの放射性物質をかぶってしまった被災地のがれきの広域焼却を推し進めることに賛成する理由として、「どうせ関東は汚染されているんだから、今更追加の放射能が出ても大差ない」、「東京の方が宮城、岩手より汚染されている、がれきを燃やせばかえって焼却炉がきれいになる」といった、ほとんど意味不明の議論をする人々が出現、ツイッター上でも、「汚染度の低いところから高いところに移すというのが原則ですが...」などと勝手に原則をつくって取りまとめようとする人まであらわれ、大いに不満に思っていたのです。(感情論をぶち上げる人はまず論外です。)

東京の汚染は宮城、岩手よりひどいのか?

燃焼試験結果を見る前に、まずこちらをご覧ください。女川町のがれきが一般ごみと混ぜて焼却される、東京23区の清掃工場の昨年12月上旬の飛灰の放射性セシウム濃度です。

一時は1万ベクレルを超えるセシウムが出ていた江戸川工場でさえ、最高時の半分程度まで飛灰の放射能は下がっています。大田区と品川区を見ると、12月上旬の試験直前の時点で、

大田区: キロ当たり2135ベクレル
品川区: キロ当たり706ベクレル

それでは、1月31日発表の燃焼試験結果、まず大田区:

がれき混合率18.8%
飛灰放射性セシウム濃度: キロ当たり2440ベクレル


12月の大田区の一般ごみを燃したあとの飛灰の放射能が2135ベクレル、この数字を使って、女川がれき100%で燃焼した場合の飛灰セシウム濃度(X、エックス)が次の式で計算できます。

X x 0.188 + 2135 x 0.812 = 2440
0.188X = 2440 - 1733.62 = 706.38
X = 3757.34

つまり、女川のがれきを大田区の12月の一般ごみと混ぜずに焼却すると、キロ当たり3757ベクレルの飛灰が生じた可能性があるのです。

大田区の焼却炉の方式は全連続燃焼式焼却炉(ストーカ炉)です。元のがれきの放射能を逆算すると、この数値を33.3(環境省が使うストーカ炉による濃縮の倍率;後述の環境省資料参照)で割って、キロ当たり112.83ベクレル。環境省が安全だと言って全国に推しているがれきの放射能レベルに合致します。

一般ごみの飛灰の放射能が2000ベクレルを超え、東京でも低くないレベルの大田区でも、飛灰から見る限り、12月時点では一般ごみは女川のがれきよりも汚染度が低いのです

次に品川区を見てみましょう。

がれき混合率:20.0%
飛灰放射性セシウム濃度: キロ当たり1043ベクレル


大田区の場合と同様に計算すると、

0.2X = 1043 - 706 x 0.8
X = 2391

飛灰の放射濃度はキロ当たり2391ベクレル、元のがれきの放射能度を逆算すると、キロ当たり約72ベクレルになります。

飛灰の放射能が女川がれきを100%燃やした場合の想定飛灰放射能(上記の計算)よりも高い工場は、12月時点では東京23区清掃工場20工場のうち1工場、江戸川区だけです。江戸川区以外の区にとっては、女川のがれきを燃やすことで飛灰に通常より多くの放射能が発生することになります

その江戸川区でさえ、「女川のがれきを燃やせば焼却炉がきれいになる」などという馬鹿なことはなく、通常のごみ処理に加えて女川のがれき処理が加わるわけですから、総量的には放射能が減るどころか増えるばかり。

宮城、岩手のがれきの方が東京の一般ごみよりも汚染されていない、という主張は、飛灰から計算した限りは根拠がなさそうです。

まして、このがれきを放射能汚染のはるかに少ない北海道、東北日本海側、北陸、関西、中国、四国、九州に運んで焼却して埋め立てるなど、正気の沙汰とも思えません。

ちなみに、英語ブログの欧米読者は、ごみ、がれきを焼却する、ということ自体が理解できないようで、まして放射性のごみ、がれきを通常のごみ焼却炉で燃やすと聞き、日本人は頭がどうかしているんだろう、と思っているようです。これ以上世界を汚染しないでくれ、とも言っています。もっとも、フクシマの事故や放射能汚染を気にする人々は世界でもおそらく極少数ですから、彼らも自国で変人あつかいされているような節はありますが。

とまれ、なぜ東京23区清掃一部事務組合の燃焼試験は、女川町のがれきを100%燃やして指標にしなかったのか。そうしていたら、大田区、品川区の数字より飛灰の放射能が高い値で出てしまうため、混ぜて分かりにくくした、と勘ぐれないこともありません。

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災害放射性がれきの広域処理についての問題点、考察については、@tsunamiwaste さん、@tautautau1976さんによる、随時更新中のTogetterがお勧めです。余りに膨大な情報のため、目次がしっかり付いています。こちらでどうぞ → http://togetter.com/li/239885

また、環境省ががれき受け入れを「検討」している自治体向けに作成したガイドラインはこちら。→ http://www.env.go.jp/jishin/attach/memo20120111_shori.pdf

一般用はこちら。→ http://www.env.go.jp/jishin/attach/waste_koiki_mat20111206.pdf

一般用を更に簡略化したのはこちら → http://www.env.go.jp/jishin/attach/waste_koiki_pamph.pdf

これを掲載している環境省の広域処理サイトはこちら → http://kouikishori.env.go.jp/

「検討」の意味はもう皆さんもお気づきになったと思いますが、「受け入れるための検討」なのです。