Wednesday, April 11, 2012

福島第一原発事故「伝言ゲーム」: 日本政府の「最悪シナリオ」には、首都圏住民が避難を迫られる状況が記されていた(毎日)→日本政府は首都圏3千9百万人の住人の強制避難の詳細計画を作成中(海外ブログ)

原発事故の発生から13ヶ月、事故に関して世の中を駆け回っている情報の質は向上しているとはいえないように思います。

これは最近の小さな事例。英語ブログの読者が「大変だ、これは本当か?」と送って来たリンクをざっと辿った結果です。

発端は2012年4月2日付けの毎日新聞コラム「風知草: 宙に浮く燃料プール」。そこにこのような記載があります。

「福島原発事故独立検証委員会」(いわゆる民間事故調)報告書は、原発事故の「並行連鎖型危機」の中でも4号機プールが「もっとも『弱い環』であることを 露呈させた」と書く。政府がまとめた最悪シナリオ(同報告書に収録)も4号機プール崩壊を予測。さらに各号機の使用済み燃料も崩壊し、首都圏住民も避難を迫られるというのが最悪シナリオだ。

これが毎日新聞の英語版、毎日デイリー(毎日サイトでは既にリンクが無いので、ここから取りました)になると、

A report released in February by the Independent Investigation Commission on the Fukushima Daiichi Nuclear Accident stated that the storage pool of the plant’s No. 4 reactor has clearly been shown to be “the weakest link” in the parallel, chain-reaction crises of the nuclear disaster. The worse-case scenario drawn up by the government includes not only the collapse of the No. 4 reactor pool, but the disintegration of spent fuel rods from all the plant’s other reactors. If this were to happen, residents in the Tokyo metropolitan area would be forced to evacuate.

毎日で日本語記事を英語記事にした際に、ちょっと見では気が付かないかもしれないミスがあります。さあどこでしょう?

それは最後の文章。それまでは日本語を忠実に訳していますが、最後になって文章を独立させてしまった。これがミスです。毎日デイリーの英語記事の文章、最後の2文を反訳してみます:

政府による最悪シナリオでは4号機の燃料プールの崩壊が想定されているだけではなく、原発内の他の原子炉すべての使用済み燃料が崩壊することが想定されている。もしそのようなことが起これば、首都圏の住人は避難を余儀なくされる。

元の日本語毎日記事では、「首都圏住民も避難を迫られる」のは政府(実際は原子力委員会)が想定した最悪シナリオの一部として記載していますが、英語部分ではこの部分を最悪シナリオの言及を省いた文章にしたため、これが政府のシナリオの中の想定ではなく、この文章を書いたコラムニストの見解である、という捕らえ方が可能になる書き方です。

実際、毎日デイリーで英語記事を読んだ読者はそう思ったようです。また、毎日の英語に頼った海外のサイトもそのように解釈し、記事に仕立てました。上記のMainichi Dailyの記事コピーをとったサイトでは、”It’s Not Over: Government Plans for the Worst: Forced Evacuation of Tokyo (事故はまだ終わっていない: 日本政府の最悪の事態に備えた計画: 東京の強制避難)”というタイトルの記事で、

Even more alarming is that the U.S. Nuclear Regulatory Commission (NRC) and other agencies have warned that the nuclear storage pools (the containment units that are being used to cool the nuclear fuel) have been damaged and may collapse under their own weight.

さらに恐ろしいのは、米国原子力規制委員会などの省庁が核貯蔵プール(核燃料を冷却するために使用される、格納ユニット)複数が損傷しており、自重で崩壊するかもしれない、と警告していることである。

Such an event would cause widespread nuclear fallout throughout the region and force the government to evacuate the nearly 10 million residents of Tokyo and surrounding areas, a scenario which government emergency planners are now taking into serious consideration.

このような事態が起きると広範囲に放射能が広がり、日本政府は1千万人の東京都民および周辺地域の住民を避難させざるを得ない。そのようなシナリオを日本政府の緊急災害対策担当者は真剣に検討を始めている。

使っている用語を見る限りこれを書いた人は原発のことをあまり知らない人だろうと思われますが、このサイトの残りの記事を読むと、日本政府が検討している、という話の根拠は毎日デイリーの記事のみ。悪いことには、このような海外メディア(特にブログ)は、「最悪シナリオ」を管政権が「存在しないこと」にして握りつぶしていたことをおそらく知らないため、「最悪シナリオ」を政府が持っているということは政府はそれに基づいて計画を立てているのだ、と短絡的に思い込み、このような記事を書きそれが全世界に広がる、という事態になっています。(知っていて書かなかった可能性ももちろんあります。)

このサイトを更に引用しているのがこのサイト。タイトルは更にエスカレートして、”Fukushima Forcing Tokyo To Evacuate! (福島事故で東京は強制避難に!)”、内容も更にエスカレートして、

If the storage pool were to fracture, the nuclear fuel would immediately heat up and explode. Radioactive fallout would be dispersed over a wide and uncontainable area. At this time now, the Japanese government are creating blueprints for forcibly removing 39 million people from the Tokyo metro-area.

貯蔵プールにひびが入れば、核燃料は直ちに加熱して爆発する。放射能が広い地域に拡散し、拡散を抑えることは出来ない。現在、日本政府は、首都圏の3千9百万人の住民を強制的に避難させるための詳細な計画を作成中である。

(ちなみにこのサイトは上記の記載の直前に、「日本では放射能の不安を口にする人々を精神病院に監禁している」という出典不明の文章があります。)

というわけで、元は単に

民間事故調の報告書にも掲載されていた日本政府の「最悪シナリオ」には、首都圏住民が避難を迫られる状況が記されていた

というだけの話が、

日本政府は首都圏3千9百万人の住人の強制避難の詳細計画を作成中

に化けました。

これが日本に逆輸入される日も近いでしょう。(既にされていますかね。)海外のネットメディア、メッセージボードなどでは、この話で持ちきりのところもあります。大変だ、日本脱出だ!というわけです。折も折、福島4号機が倒れるとか、4号機使用済み燃料プールにひびが入れば地球は終わりだ、というような発言が国内外で再び相次いでいる昨今、このようなブログ、ウェブサイトの「妄想」はそのまま信用されているようです。

実際に、英語ブログでこの妄想を指摘したところ、「でもありうる話だ、何しろ4号機が倒れそうなんだから」という答。それと、二言目には「日本政府、東電、マスコミの言うことは信用できない」。そんな計画など、立てたくても立てようがないだろう、という真っ当な意見はわずか1名。

こと福島原発事故、放射能汚染についての報道でマスメディアを信用しない傾向は日本も外国も同じようになってきましたが、かといって独立メディアやネットメディアが信用できるわけでもありません。マスメディアとひっくくられる中に入るニューヨークタイムズ紙などでも、日本在住の記者が取材に基づいて書いた丁寧な記事が出ます。ただ、そのような優秀な記事でもまずニューヨークタイムズに出た、と言うだけで疑いの目で見られ、扇情的なことも書いていないので「信用されない」というおかしなことになっています。

結局、読み手が賢くなって情報を精査できるようになるしかないのですが、そこまでする時間がまずないのでしょう。事故から1年以上経って、そこまでする気力もなくなってきているように思えます。特にこの1、2ヶ月で、このような「伝言ゲーム」がずいぶん増えているような気がします。そして、そのゲームの一番最後の方に登場する、大本の情報からかけ離れた言葉が独り歩きしています。

皮肉なことに、発端を作った毎日新聞はオンラインのサイトを再構成し、英語版と日本語版のサイトを合体させ、「英語を学ぶ日本人の読者もターゲット」にする、とのこと。まあ、この例で見た限りは、毎日の記事で英語を勉強したらちょっとずれるかな、と思います。

2 comments:

  1. http://plaza.rakuten.co.jp/isurael/diary/20120409/ というブログに関連するかもしれない気になる情報あり。
    EXSKF様 できればこの型と連絡取ってみてはいかがかと思います

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    1. うーん。4号機崩壊が突如再び注目されているのは、やぱりあの3月の朝日モーニングバードの番組がきっかけのようですね...

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